こんにちは!ESG Journal Japan編集部です!
近年、気候変動や生物多様性、水資源、廃棄プラスチック、ビジネスと人権など、企業が環境上の課題や社会課題にいかに取り組んでいるかについての関心が急速に高まっています。
こうした変化が企業におけるESGの取り組みを強力に後押ししているのは、過去コラムでも述べた通りですが、「企業のESGの取り組みは本当に企業価値向上につながるのだろうか」という点は今なお議論が続いており、現在も発展途上のテーマです。
今回はESGの見えざる価値をどう企業価値向上に繋げるべきかを、「ROE」と「ESG」を組み合わせた造語である「ROESG」が生まれた背景を前編で紐解きながら、後編では実際に「ROESG」を用いて分析を行っているエーザイの事例を中心にお伝えしていきたいと思います。
ROEと株主資本主義
2014年、伊藤レポートによるROE8%の設定
皆さん良くご存知の通り、ROE(Return On Equity)は、資本生産性(自社の資本をいかに株主の利益に変換できたか)を表す指標です。
ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
ROEは、2014年8月に発表された経産省による報告書「伊藤レポート」により一躍脚光を浴びました。それまでの日本企業のROEは欧米企業に比べて5%台と非常に低い水準にあり、株主を納得させられることはできませんでしたが、「伊藤レポート」において、ROEの最低目標値が8%と設定されたことで、ROEが日本企業の一つの重要な指標となったのです。
2015年、コーポレート・ガバナンスコードの設定
また翌年のコーポレート・ガバナンスコードもROEに関する意識を高めました。これは日本企業の低いガバナンス意識を改革すべく設定されたものですが、「収益力・資本効率等の向上」といった観点が取り入れられ、これらを景気に日本企業のROE重視の傾向は加速しました(これらの歴史を理解するには、日経ビジネス「ROEとコーポレートガバナンス」が非常に参考になります)。
上記2つのイベントを契機に、ガバナンス改革とROE向上に取り組んできた日本企業は、近年では平均ROE8%を達するまでに至りましたが、未だ欧米企業の水準には及んではいません。しかしながら、これまで株主資本主義を重視し、高ROEを達成してきた米国では徐々に歪みがみられるようになってきました。
欧米における株主資本主義からの脱却とZ世代の行動
2019年8月、米国の経営者から構成されるビジネス・ラウンドテーブル(BR)では、それまで株主のための利益最大化を行動原則としていた企業行動から、顧客・従業員・取引先・地域社会・環境といったその他のステークホルダーにも配慮した行動へと企業がシフトすべきだと提言されました。
このような見直しが入った要因はいくつかありますが、その筆頭に挙げられるのが社会的不平等の拡大や気候変動に伴う危機です。
またZ世代と呼ばれる、社会的意識の高い若い世代の姿勢も影響を及ぼしました。企業の経営者に対し、より安価で安全でクリーンなモノやサービスを提供せよ、という要求を強めるようになったのです。
参考:Z世代は社会運動に積極的 10代の7割「参加したい」(朝日新聞デジタル)
このような動きによりROE等の資本生産性を株主のためだけに追求するのではなく、より多くのステークホルダーのために持続的可能性を追求しよう、という流れが徐々に生まれ始めました。
「ROE」も「ESG」もどちらも追う!「ROESG」という二項融和型経営モデル
一方で、日本ではまだこのような行き過ぎた株主資本主義は起きていない、と「伊藤レポート」著者の伊藤邦雄氏は述べています。
「日本企業が持続的な価値創造を通じて、グローバル競争力を高めていくためには、資本生産性(ROE)という観点でも、持続可能性(ESG)という観点でも進化が必要である。そのためには中長期的な観点から資本生産性と持続可能性が両立することが重要である・・・(中略)・・・筆者は、ROEとESGを二項対立でとらえるのではなく、二項融和する経営モデルとしてROESG経営を提唱している。」
出所:伊藤邦雄 (2021). 企業価値経営 P.592〜593.
「ROESG」とは、伊藤レポートの著者である伊藤邦雄氏の造語ですが、いずれもしっかりと追求できていない日本企業は、そのどちらかを是とするのではなく、ROE(資本生産性)とESG(持続可能性)の両立を追求すべきだという観点が取り入れられています。
ROESGランキングと指標の相関関係
実際に両社を追求した経営は企業価値向上に結びついているのでしょうか。伊藤氏が監修し、2019年8月に日本経済新聞にて公表された第1回日経ROESGランキングをみていきましょう。
ROESGの算出方法
ESGスコアは、アラベスク、サステイナリティクス、FTSE、MSCI、ロベコのESG評価機関5社の2019年3月末時点の評価を用いた。各社の上位10%の企業を満点(1点)として10%ごとに0.1点ずつ減らし5社の点数を平均した。上位には最大3割のプレミアムを乗せ、最高点を1.3とした。QUICK・ファクトセットのデータからROEの3期平均を算出し、ESGスコアと掛け合わせた。
出所:日経新聞(上記リンク記載)
株式時価総額300億ドル(約3.2兆円)以上、自己資本比率20%以上の企業を対象に、資本効率を示す自己資本利益率(ROE)にESGスコアを乗じた。5つの評価機関すべてのスコアがある企業に絞り、263社が対象となった。
上記の順位とは別に、ROEとESGスコア自体の相関は優位なものは導き出されなかったようです。一方で、ESGスコアが低い水準である場合はROEの係数部分はプラスにはならないという結果が出たようです。
伊藤氏は「ESGスコアが低水準でも上位に来てしまっている企業は、顧客や従業員、取引先や地域、環境に何らかの負荷をかけながらROEを維持しているということが言えるのでは」とESGスコアがROEの質の高低を表す点に言及しています。ROESGランキング2位のたばこメーカー「米アルトリア・グループ」のような企業のことを指しているのだと思われます。
一方で、本結果だけを見た全体の傾向としてはESGスコアの高低というよりも、ROEの高さがランキングにより強い影響を与えているとも言えます。
最後に
前編では「ROESG」という造語が生まれた背景について解説させていただきました。日本は欧米に比べて資本生産性(ROE)という観点でも、持続可能性(ESG)という観点でも遅れをとっている、というのは正しくその通りだと思います。しかし、どちらかに傾倒するのではなく、バランスを取って両者を追求し、グローバルに戦っていくという日本企業の新たなあり方を追求する、という観点は非常に面白いと言えます。
後編では、このROESGを実際に経営に落とし込もうとしているエーザイについて取り上げます。先日認知症の新薬を発売して勢いに乗るエーザイはESGについても徹底追及しており、非常に勉強になるので、是非週明けに公開する後編もご覧ください。
またその他にも個別企業のROESGに関するコラムも執筆しているので、お時間ある方は以下リンクよりご覧下さい。
【ESG 企業開示事例㉑】ROESGスコアは日本勢1位!サプライチェーンも意識する花王のESG・サステナビリティ経営
【ESG 企業開示事例⑳】独自のROESG指標を中計の経営指標に!明治ホールディングスのESG・サステナビリティ経営
【ESG 企業分析⑫】エーザイが推進するROESG経営!日本企業に足りていない市場へのESG×企業価値訴求
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次回も上場企業のESG開示やESGの最新トレンドについて、詳しく紹介していきたいと思います。
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