EU、2035年の新車ゼロ排出義務を緩和 自動車産業支援で排出規制に柔軟性

12月16日、欧州委員会は、自動車産業の脱炭素化と競争力強化を同時に進めるための包括的な政策パッケージ(オートモーティブ・パッケージ)を発表した。2050年の気候中立達成という目標を維持しつつ、メーカーに一定の柔軟性を与え、規制の簡素化を通じて欧州自動車産業の国際競争力を高める狙いがある。

欧州委は、長年にわたり雇用と技術革新を支えてきた自動車産業が、電動化や新興企業の台頭など大きな転換期に直面していると指摘。今回のパッケージは、ゼロエミッション車(ZEV)への移行を明確に促しながらも、CO₂排出規制の達成方法に柔軟性を持たせる点が特徴だ。

具体的には、2035年以降の新車について排気管由来のCO₂排出量を90%削減することを義務付け、残る10%については、EU域内で生産された低炭素鋼材の使用や、合成燃料(eフューエル)、バイオ燃料の活用によって相殺することを認める。これにより、完全電気自動車(EV)や水素車に加え、プラグインハイブリッド車(PHEV)や内燃機関車も一定の役割を果たし続ける余地が残される。

2035年以前の措置としては、EU域内で生産される小型・低価格EVに対する「スーパー・クレジット」を導入し、市場投入を後押しする。2030年目標についても、排出枠の「バンキング&ボローイング(前倒し・繰り越し)」を認めるなど柔軟性を高めた。商用バンについては電動化が進みにくい実情を踏まえ、2030年の削減目標を50%から40%に引き下げる。

また、大型トラックなど重量車両(HDV)についても、2030年目標の達成を容易にするため、CO₂排出基準の一部修正を提案した。

需要面では、企業保有車両の脱炭素化を進めるため、加盟国ごとにゼロ・低排出車の導入目標を設定する。公的支援を受ける車両については、「低排出」かつ「EU製」であることを要件とする方針だ。

さらに、EU域内の電池産業強化に向け、総額18億ユーロの「バッテリー・ブースター」を創設。うち15億ユーロを電池セルメーカー向けの無利子融資として提供し、供給網の強靱化とコスト競争力の向上を図る。

規制簡素化も柱の一つで、関連手続きを削減する「オートモーティブ・オムニバス」により、企業の行政コストを年間約7億600万ユーロ削減できると試算する。試験手続きの合理化や二次法令の削減により、環境・安全基準を維持しつつ負担軽減を進める。

今回の提案は、2025年1月に開始された自動車産業の将来に関する戦略対話の成果を踏まえたもので、今後、欧州議会と加盟国による審議を経て具体化される。

(原文)Commission takes action for clean and competitive automotive sector

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