CSRD改革案に欧州企業が懸念 調査で現場の支持と課題が明らかに

5月、欧州のNGOであるWeAreEuropeは、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)についての新しい調査結果について発表し、多くの企業実務者がCSRDの枠組みを支持する一方で、欧州委員会が2024年秋に提示した改正案(オムニバス提案)には懸念を示していることが明らかになった。CSRDは、企業がESGに関する影響・リスク・機会を「ダブルマテリアリティ」に基づき報告することを義務付ける、EUの持続可能性政策の中核的な規制である。

今回の調査は、HECパリ、ヨーク大学、コペンハーゲン・ビジネススクール、ミュンヘン大学などの学術機関の専門家が設計を支援し、2025年3月31日から4月30日にかけて欧州全域で実施された。回答者の40%がCxOであり、CSRDが企業戦略の中核に位置付けられていることを示している。

調査結果では、全体の83%がCSRDに満足、もしくは一部の改善を前提に支持しており、根本的な見直しや廃止を求める声は7%にとどまった。特にCSR部門では満足度が高く、財務部門でも支持の声が多数を占めた。一方で、欧州委員会のオムニバス提案に対しては支持が25%にとどまり、51%が大幅な修正を求めている。

CSRDの評価点としては、ESG情報の透明性・比較可能性の確保、企業変革の戦略的管理ツールとしての有用性が挙げられた。また、CSRDが欧州の経済主権や地政学的影響力の強化に寄与するとの見解も90%から支持され、従来にはなかった新たな視点が浮かび上がった。

一方、技術的な指針の不足や中小企業への負担、実施にかかるコストや工数の多さといった課題も指摘された。ただし、「CSRDが企業の競争力を損なう」という意見は6つの懸念項目の中で最も少なかった。企業規模に関する基準については、1000人基準への引き上げには否定的な声が多く、500人基準がより現実的との認識が広がっている。

地域別では、東欧諸国がCSRDに対して最も高い懸念を示した一方で、北欧・西欧諸国やフランスは高い支持を示した。ドイツにおいても不満率は21%にとどまり、政治的な論調と実務現場の温度差が示された。企業規模が大きいほどCSRDへの支持が高く、5000人超の企業では67%が賛同を示している。

(原文)2025 post-Omnibus CSRD Business Survey

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