SSBJ対応の基本と準備の進め方 全体像からマテリアリティ評価・指標収集まで

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2027年3月期からプライム市場上場企業(時価総額3兆円以上)による、SSBJ基準に基づくサステナビリティ開示が始まる。これを受け、26年に入って、SSBJ基準に基づく開示を先行して実施する企業も現れ、国内でも新たな開示実務が本格的に動き始めた。

2029年以降に適用対象となる企業にとっては、「まだ準備期間がある」と感じられるかもしれないが、SSBJ対応では、開示項目を整理するだけでなく、自社のサステナビリティ関連のリスク及び機会の特定、指標の選定、データ収集体制や内部統制の整備など、複数年を見据えた準備が求められる。そのため、適用時期にかかわらず、早い段階から全体像を把握し、自社の現状を整理しておくことが重要である。

本稿では、SSBJ対応を始めたり、対応の漏れがないか確認したりするなど、対応の全体像と、マテリアリティ評価、指標選定・収集準備の基本的な考え方を解説する。

なお、「何から着手するか」「TCFD開示からどのように移行するか」など具体的な準備ステップや適用までのフェーズごとの対応内容については、別稿で解説しているため、あわせて参考にしてほしい。

>>>関連する解説記事「SSBJ基準対応をどう進めるか:既存の気候関連開示との違いと準備ステップの整理

<執筆者プロフィール>
青井 星七美
機関投資家にて日本株への投資業務、不動産投資信託の運用会社IRとして開示資料の作成及び国内外の投資家対応を担当。機関投資家・IR双方での経験を活かし、監査法人トーマツにて企業のサステナビリティ情報開示支援に従事し、SSBJ・CSRD対応や人的資本開示アドバイザリーを経験。
現在はシェルパ‧アンド‧カンパニーにて、SSBJ対応や評価機関対応に関するコンサルティングを行うとともに、ESG Journalにおいて解説記事及びホワイトペーパーの執筆を手がけている。

SSBJ対応の全体像

①初期対応(ゴール設定、リスク・機会の特定、現状とのギャップ整理)

SSBJ開示に対応する企業においては、まず想定する開示時期や経過措置の活用方針を踏まえ、ゴールを設定し、社内体制を組成する。加えて、SSBJで開示するサステナビリティ関連のリスク・機会を特定し、現状の開示とのギャップを明らかにし、不足事項への対応方針や対応スケジュールを具体化する。

②現状とのギャップへの対応

・定量:指標の決定、指標データの収集、内部統制体制の構築

定量面では、開示する指標・目標の決定や、定義・算定式の整理、指標データの収集体制及び収集における業務要件・システム要件の検討を行い、指標を収集する。指標の収集にあたっては、システムの活用や内部統制の構築も重要となる。

・定性:ガバナンス、リスク管理、戦略に関する情報の策定

定性面では、ガバナンス、リスク管理、戦略に関する情報を整理・策定する。特に、戦略においては財務的影響の整理が対応のポイントとなり、気候関連では移行計画への対応も重要な論点となる。

③開示ドラフト作成・保証

定量・定性の両面での対応が進み、開示する情報が整理されてきた段階で、有価証券報告書での開示に向けて、開示ドラフトを作成する。また、第三者保証への対応も想定される。

SSBJで開示するリスク・機会とは何か

SSBJ基準では、「企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を開示しなければならない」とされている(出所:SSBJ適用基準34項)。また、「企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会」とは、短期、中期又は長期にわたり、企業のキャッシュ・フロー、当該企業のファイナンスへのアクセス又は資本コストに影響を与えると合理的に見込み得る、すべてのサステナビリティ関連のリスク及び機会をあわせたもの」と定義されている(出所:SSBJ適用基準4項(6))。本稿では、こうしたリスク・機会を便宜上「SSBJで開示するリスク・機会」と表現する。

つまり、SSBJ対応においては、企業に関連するサステナビリティ関連のリスク及び機会を広くすべて開示するのではなく、企業のキャッシュ・フロー等に影響を与えると合理的に見込み得るリスク・機会を開示することが重要である。

マテリアリティ評価の進め方

SSBJ基準は、リスク・機会の識別に至る実務上の手順や順番を詳細に定めているものではない。以下では、SSBJの要求事項に対応することを念頭に、リスク・機会を特定するプロセスの一例を解説する。なお、本稿では、SSBJで開示するリスク・機会を識別・評価するためのプロセスを、便宜上「マテリアリティ評価」と呼ぶ。

①ビジネス・モデル及びバリュー・チェーンの情報整理

リスク・機会の検討にあたり、まず自社のビジネス・モデル及びバリュー・チェーンの情報を整理する。これは、どこでどのようなリスク・機会が発生するかを検討するのに有用なだけでなく、リスク・機会が現在及び将来のビジネス・モデル及びバリュー・チェーンに与える影響や、バリュー・チェーンのどこに集中しているかを開示するために必要となる。

②時間軸の定義

リスク・機会の影響が生じると見込み得る時間軸を開示するため、短期・中期・長期の時間軸を定義する。その際、単に年数を設定するだけでなく、中期経営計画や長期ビジョンなど、戦略的意思決定に用いる計画期間との関係を説明できるようにしておくことが重要である。

③リスク・機会の識別

SSBJ基準に加え、SASBスタンダードや既存のマテリアリティ、同業他社の開示、その他の外部基準等を参照し、リスク・機会を識別する。特に、SASBスタンダードについては、参照し、その適用可能性を考慮することが求められる。

④リスク・機会の評価及びSSBJで開示するリスク・機会の特定

識別したリスク・機会は、例えば財務影響と発生可能性を軸に評価し、SSBJで開示する対象を特定する。ただし、SSBJ基準は評価軸や閾値の詳細を定めていないため、企業固有の状況を踏まえて基準を設定し、判断根拠やプロセスを記録しておくことが重要である。

指標の選定・収集準備

①指標の選定

SSBJで開示するリスク・機会が決まると、それらをモニタリングするための指標及び目標を検討する。指標の選定にあたっては、SSBJ基準に加え、SASBスタンダードや既存の指標、同業他社の開示、その他の外部基準等の指標も参考にしながら、リスク・機会との関連性を説明できるものを選定する。SASBスタンダードについては、リスク・機会の識別時と同様、参照し、その適用可能性を考慮することが求められる点に留意が必要である。

②収集準備

指標については、その名称のみならず、定義、算定方法、算定に用いたインプット、測定上の制約や前提を整理することも必要となる。あわせて、連結ベースでの収集に向けて、国内外子会社からのデータ取得方法、主管部署、既存システムの活用可否、収集上の課題を確認し、実際にデータを収集できる体制を設計する。

③内部統制、システムの活用

データ収集の実務においては、誰がデータを入力し、誰が確認・集計・承認するのか、差戻しや修正をどのように行うのかといった業務フローも明確にする必要がある。システムを活用する場合は、権限設定、承認フロー、証跡管理、データチェック、出力形式などを要件として整理することが想定される。SSBJ基準が内部統制の具体的な構築方法まで定めているわけではないが、有価証券報告書における開示情報としての正確性や保証の取得を見据え、レビュー・承認手続きや証跡管理の整備は重要と考えられる。

まとめ

SSBJ対応では、まず自社の事業やバリュー・チェーンを踏まえ、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク・機会を特定することが出発点となる。

また、特に定量的な指標データについては、国内外の拠点を含めた連結ベースでの収集体制の整備に時間を要することが想定される。とりわけ、既存システムの改修や新たなツールの選定・導入には一定のリードタイムを要する場合が多い。そのため、指標の定義・収集要件の整理とシステム面の検討を並行して進めながら、早期に対応の全体像を描き、関係部署を巻き込んで準備を進めることが求められる。

参考資料:サステナビリティ開示基準 


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青井 星七美
機関投資家にて日本株への投資業務、不動産投資信託の運用会社IRとして開示資料の作成及び国内外の投資家対応を担当。機関投資家・IR双方での経験を活かし、監査法人トーマツにて企業のサステナビリティ情報開示支援に従事し、SSBJ・CSRD対応や人的資本開示アドバイザリーを経験。
現在はシェルパ‧アンド‧カンパニーにて、SSBJ対応や評価機関対応に関するコンサルティングを行うとともに、ESG Journalにおいて解説記事及びホワイトペーパーの執筆を手がけている

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