MSCI 2026アップデート解説と実務インパクト

MSCI ESG Ratingsは、「投資家が財務的に重要と考えるESGリスク・機会」を業種別に評価する仕組みであるとされており、投資家とのエンゲージメントにも幅広く活用されているとされている。また、MSCI ESG Ratings 2026 Model Updateによれば、2026年には、大規模なモデル改訂と透明性・データ粒度の向上が公表されている。

本稿では、MSCI ESG Ratingsの概要から2026年アップデート、SSBJ基準での開示や投資家対応への活用方法、実務上の対応ポイントまで整理する。

MSCIのESG評価(ESG Ratings)とは

MSCIとは

MSCIは、指数・リサーチ・ESGデータを提供する国際的な金融サービスプロバイダーである。ESG領域では、ESG格付け(MSCI ESG Ratings)やサステナビリティ指数、気候関連データなどを展開している。

MSCI ESG Ratingsは、企業の「財務的に重要なESGリスク・機会への対応力」を分析・評価しており、33のキーイシュー、1,000以上の指標、エクスポージャースコア(80の地理・事業セグメントメトリクス)、マネジメントメトリクス(スコア)に基づき評価している。なお、評価方法は、絶対評価ではなく「業種内での相対評価」を採用しており、AAA〜CCCの7段階で格付けが付与される。

MSCI ESG Ratingsの評価構造

MSCIでは、業種ごとに重要性が異なるESGテーマを「Key Issues(キーイシュー)」として整理し、評価の対象としている。たとえば、エネルギー業種であれば、キーイシューは、炭素排出、生物多様性・土地利用などがあり、IT関連業種であれば、プライバシー・データセキュリティ、人的資本開発などである。また、ガバナンスに関するキーイシューは、どの業種においても共通して評価されている。

なお、ESGインダストリー・マテリアリティ・マップを公開しているので、自社のキーイシューを確認できる。以下では、MSCIのひょかにおける全体像、テーマ別の変更ポイントを整理しながら、実務上の重要論点を詳しく見ていこう。

2026 アップデートのポイント

2026年のESG Ratingsのアップデートでは、大規模なモデル更新が実施された。今回の改訂では、定量データをより重視し、「財務影響につながるESG要素」を重視する方向に調整されている。重要な変更点と移行に伴う影響は以下のとおりである。

変更領域主な変更内容実務上の意味
定量指標の強化定量サステナビリティ指標のスコアリングを改善し、財務アウトカムとの整合性を向上「方針」の有無だけでなく、実績・KPI・進捗データの重要性が高まる
不祥事評価の見直し不祥事の進行状況や企業関与の度合いを反映する方式へ変更一時的な事故か、構造的問題かによって評価影響が変わる
サステナビリティ目標評価の変更目標の有無だけではなく、範囲・進捗・第三者検証・実行可能性を重視する新しい枠組みNet Zeroや人権方針を開示するだけでなく、計画の進捗や課題などを詳細に示す
サプライチェーン評価の高度化貿易データや労働リスクデータベースを活用した科学的アプローチへ変更人権DDや責任ある調達の実効性がより問われる
レーティング閾値バッファーゾーンの導入各閾値に±0.1ポイントのバッファーを設定し、小幅なスコア変動によるレーティング変更を抑制頻繁な格付変動によるノイズが減り、レーティングの安定性とシグナルの信頼性が向上する
レーティング変動への影響規模モデル・データ更新の一括反映により、発行体数ベース約37%でレーティング変動を見込む自社への影響を事前にシミュレーションで確認し、投資家対話への備えが必要となる

出典:MSCI ESG Ratings 2026 Model Update よりESGJournal作成(あくまでESGJournalの見解であり評価の保証をするものではありません)

上記以外にも、今回のアップデートでは、一部業種においてキーイシューやウェイトの見直しも実施された。これにより、従来は相対的に重要度が低かったテーマが新たに評価上の重要項目となる可能性もある。

さらに、従来よりも詳細な指標レベルのスコア、ウェイト、寄与分析が開示されるようになっているので、企業側は「どの項目が評価に影響しているのか」を把握しやすくなったとされている。

評価スケジュール

MSCI ESG Ratingsは、評価時期が特定されているわけではなく、少なくとも12か月以内に1回、フルレビューが実施されている。2026年にアップデートされた評価モデルは、2026年3月から実装されている。

ただし、従来の“年1回評価”の実施から継続的なデータ更新・レビュー型へ移行している点には留意が必要だ。なお、日本企業の主要な情報開示タイミングが統合報告書・有価証券報告書・株主総会である点を踏まえると、これらのタイミングがMSCIによるレビュー更新の主要トリガーとなりやすいと考える。

従来よりもデータ更新頻度が高まり、格付けがより「継続的なモニタリング型」となっていると言える。

MSCIのレポートによれば、AI活用によるデータ処理高度化を背景に、企業開示、メディア、ガバナンス情報、不祥事情報などが日次ベースで取り込まれており、コンポーネントスコアは週次で再計算されている。

600以上の新データポイント追加:「評価」から「分析基盤」へ 

2026年アップデートでは、MSCI ESG Ratingsに600以上の新しいスコアやデータポイントが追加された。主な変更点は以下のとおり。

主な追加領域追加されるデータ例実務上の意味
水資源(Water Stress)水削減施策、目標達成状況、ガバナンス評価水関連リスク管理の説明強化
人的資本離職率、従業員満足度関連指標人的資本開示・SSBJ基準開示(制度開示)との接続
サプライチェーン労働基準生活賃金(Living Wage)、苦情処理制度人権DD(責任ある調達)の実効性の評価
廃棄物・有害排出排出削減目標、進捗状況KPIの説明強化
金融包摂(Financial Inclusion)未銀行化層向け施策社会価値・インパクト分析の高度化

出典:MSCI ESG Ratings 2026 Model Update よりESGJournal作成(あくまでESGJournalの見解であり評価の保証をするものではありません)

SSBJ基準開示・投資家エンゲージメントへの活用

SSBJ基準への対応が進む中、企業では「マテリアリティ開示」「投資家の重視論点」を整理する重要性が高まっている。MSCI ESG Ratingsも、格付け対策にとどまらず、投資家視点のマテリアリティ分析ツールとして活用できるだろう。

2026年のアップデートにより、指標レベルまでのドリルダウン情報やウェイト情報が拡充されたことで、制度開示・投資家対話・内部管理を接続しやすくなったと言える。MSCIにおいても、ISSB、SASB、CSRDなど国際基準との整合性を意識してデータ構築を行っているとしている。

主な活用例については以下のとおり。

活用方法SSBJ基準・投資家対応への活用
マテリアリティ特定投資家が重視するESGテーマの把握
指標・KPI整理制度開示の指標・目標開示の検討
企業比較自社の相対的位置の把握
ガバナンス分析ガバナンス開示・株主対話への活用
サプライチェーン管理人権DD・サプライチェーン開示との接続
エンゲージメント対応投資家対話論点の事前把握
開示改善分析「どの開示が評価に影響するか」の分析

なお、MSCI対応を「格付け対策」として個別に捉えるのではなく、SSBJ基準対応の開示、投資家エンゲージメント、内部管理をつなぐ“共通マテリアリティ管理”として位置付ける視点が求められる。

まとめ

MSCI ESG Ratingsの2026年のモデルアップデートでは、定量データ重視へのシフト、不祥事評価やサプライチェーン評価の高度化、透明性向上など大規模な見直しが実施された。

特に、指標レベルのスコアやウェイト、寄与分析まで確認可能となったことで、企業側も「何が評価に影響しているのか」を把握しやすくなっている。

SSBJ基準対応が進む中では、MSCI対応を単なる格付け対策としてではなく、投資家との対話やマテリアリティ管理、開示改善を統合的に進めるための実務ツールとして捉える視点が重要となる。

参考情報:MSCI ESG Ratings 2026 Model Update



<執筆者

竹内愛子
国際関係学に関する修士号を取得。総合コンサルティングファームにて、システムおよび戦略コンサルティングに従事した後、Big4ファームのアドバイザリー部門にて、ガバナンス・リスクマネジメントや統合報告に関する企業向け支援に携わる。
2022年より ESG Journal にて、サステナビリティ経営の観点から、情報開示実務やそれを支えるシステム活用をテーマに、オリジナル解説およびホワイトペーパーの執筆を行っている。

関連記事一覧