EU、2040年温室効果ガス90%削減で政治合意 競争力と脱炭素の両立を目指す

12月10日、欧州連合(EU)は2040年までに温室効果ガス(GHG)排出量を1990年比で90%削減するという法的拘束力を持つ気候目標について、欧州議会と加盟国が暫定的な政治合意に達したと発表した。EU気候法の改正を伴う今回の合意は、2050年の気候中立(ネットゼロ)に向けた道筋を明確にし、脱炭素と産業競争力の両立を図る狙いがある。
合意では、2040年目標の達成にあたり、高品質な国際クレジットの活用を一定程度認める点が特徴となっている。1990年比排出量の最大5%分を国際クレジットで補うことが可能とされ、これにより域内での実質的な排出削減は85%となる。国際クレジットの使用は2036年以降に開始され、パリ協定第6条の枠組みと整合的な厳格なセーフガードが求められる。
EU側は、この目標設定が投資家や企業にとって予見可能性を高め、クリーン移行、産業競争力、エネルギー安全保障と自立性を後押しすると強調している。国際的にも、パリ協定達成への強い関与を示し、気候変動対策における主導的な立場を維持する姿勢を打ち出した。
欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は声明で、「2040年に向けた90%削減という法的拘束力のある目標により、気候中立への明確な進路が示された。現実的で柔軟な枠組みのもと、クリーン移行を競争力あるものにしていく」と述べた。
今回の合意は、経済・地政学的な現実を踏まえた「現実的で柔軟な」アプローチを打ち出している。域内排出量取引制度(EU ETS)では、削減が難しい残余排出に対して恒久的な国内吸収源(リムーバル)を用いることが可能となるほか、部門間や政策手段間での柔軟性を高め、加盟国が一部の分野での遅れを他分野で補うことも認められる。
また、2030年以降の新たな気候枠組みに向けては、欧州産業の競争力への配慮、社会的に公正でコスト効率の高い移行、技術中立性に基づくイノベーション、再生可能エネルギーの活用強化などが重視される。中間目標の実施状況については2年ごとの評価が導入され、最新の科学的知見や技術進展、エネルギー価格、産業競争力への影響などを踏まえた見直しが行われる。
一方、建築物や道路輸送、小規模産業を対象とする新たな排出量取引制度(ETS2)の適用開始は、2027年から2028年へと1年延期された。ただし、モニタリングや報告、検証の義務は予定通り2025年から始まっている。
今後、欧州議会とEU理事会が正式に法案を採択した後、改正されたEU気候法は官報に掲載され、発効する見通しだ。EUは脱炭素路線を堅持することで、イノベーション投資や雇用創出、経済成長を促進し、気候変動の影響への耐性とエネルギー自立性を高めるとしている。
(原文)EU agrees on a 2040 Climate target that sets a clear path towards a decarbonised and competitive economy
(日本語参考訳)EUは、脱炭素化と競争力のある経済への明確な道筋を示す2040年の気候目標に合意した。

