
10月16日、米通貨監督庁(OCC)、連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)の3金融当局は、2023年に策定した大手金融機関向けの「気候関連金融リスク管理原則(Principles for Climate-Related Financial Risk Management)」を正式に撤回したと発表した。対象は総資産1000億ドル超の金融機関で、官報掲載の日付をもって効力を失う。
この指針は、金融機関が気候変動による信用リスクや資産劣化などの影響に備えることを促す目的で2023年10月に制定されていた。しかし、当局は声明で「既存の健全性基準やリスク管理規則で十分対応可能であり、気候関連リスクに特化した指針は不要」と説明。むしろ、他の重要なリスク管理課題から注意を逸らす恐れがあると指摘した。
OCCは今年3月に単独で同原則からの離脱を表明しており、今回の決定で3機関全体としての統一指針が失効する形となった。OCCのジョナサン・グールド通貨監督官は「金融機関は規模と事業の複雑性に応じたリスク管理を行う義務を既に負っており、特別な気候リスク原則は必要ない」との見解を示した。
FRBとFDICも共同声明のなかで、「すべての銀行は重大なリスクに対して強靱でなければならない。気候リスクを否定するものではないが、既存の監督体制に組み込まれている」と強調した。これにより、米大手銀行に対して明示的な気候リスク管理フレームワークを求める連邦レベルのガイドラインは事実上なくなる。
この決定について、バイデン政権下で進められていた「気候金融政策」の一部後退とみる向きもある。金融当局内では、気候変動への対応を過度に制度化することに対し、一部から「政治的中立性を損なう」との懸念が出ていたとされる。
なお、当局は今回の撤回に際し、新たな情報開示や書類提出などの義務は発生しないと説明している。米行政管理予算局(OMB)はこの判断を「重要な規制行為」に分類しつつも、法的手続きを伴う追加措置は不要と判断した。
今後、米国の金融機関は自主的な判断のもとで気候関連リスクへの対応を続けることになるが、国際的には欧州連合(EU)などで規制が強化されており、各社の対応姿勢が問われる局面となりそうだ。
(原文)Rescission of Principles for Climate-Related Financial Risk Management for Large Financial Institutions
(日本語参考訳)大手金融機関の気候関連金融リスク管理原則の撤回
















