米資産運用大手「脱炭素」圧力で訴訟継続へ

8月1日、ESG投資を推進する世界最大級の資産運用会社の行動が、独占禁止法に違反するかが争点となっている訴訟で、米テキサス州の連邦地方裁判所は、被告であるブラックロック、ステート・ストリート、バンガードの3社による訴えの棄却申し立てを退け、審理の継続を認める決定を下した。

環境目標を掲げた株主の共同行動が、市場競争を歪める「カルテル」にあたるかが司法の場で本格的に審理される異例の展開となり、世界の金融界に波紋を広げている。

2024年11月、パクストン司法長官は、資産管理会社である3社が協働して投資先の石炭会社に対し、気候変動対策として2030年までに石炭生産量を半減させる「グリーンエネルギー」目標に協力するよう圧力をかけたとして提訴した。これは意図的に供給を減らして価格をつり上げ、家庭の電気代を上昇させることで不当に利益を得る行為であり、複数の州法や連邦の独占禁止法に違反するものだと主張している。

パクストン長官は今回の決定を受け、「世界で最も影響力のある金融企業3社が結成した違法なカルテルに責任を問うための大きな一歩だ」と述べ、徹底して争う姿勢を改めて示した。

近年、気候変動リスクへの対応は機関投資家の重要な責務とされ、複数の投資家が連携して企業に改善を促す「協働エンゲージメント」は世界的な潮流となっていた。しかし、運用資産規模で世界トップクラスを誇る3社が足並みをそろえることで、個別の企業への働きかけにとどまらず、産業全体の生産量にまで影響を及ぼすことが可能になる。今回の訴訟は、その影響力行使の是非を問うものだ。

競争法に詳しい専門家は「株主としての正当な権利行使と、競合他社との協調による市場への影響力行使との境界線は極めて曖昧だ。今回の司法判断は、その線引きを定める上で重要な判例となりうる」と指摘する。

一方、資産運用会社側はこれまで、こうした働きかけは投資先の長期的な企業価値を守るための正当なスチュワードシップ(受託者責任)活動の一環だと主張してきた。

審理継続の決定により、今後は法廷で、ESGという社会的大義を掲げた行動が、自由な市場競争の原理とどう両立するのかが具体的に問われることになる。訴訟の行方は、世界中の機関投資家によるESG戦略や企業との対話のあり方に、大きな見直しを迫る可能性がある。

(原文)Attor­ney Gen­er­al Ken Pax­ton Scores Major Win to Hold Black­Rock, State Street, and Van­guard Account­able for Ille­gal­ly Con­spir­ing to Manip­u­late Ener­gy Markets

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