ISSB「人的資本開示」の最新動向ー主要指標と開示対応ポイント

SSB(国際サステナビリティ基準審議会:International Sustainability Standards Board)は、人的資本(Human Capital)に関する開示制度の整備に向けた調査研究を公表した。これは、12月10日に実施される会議に提出される資料だ。
公表された資料では、投資家が重視する「14の業種横断的な開示項目」と、今後の基準化の方向性(基準化されるならどういう形態か)が示された。特に、投資家は、人的資本と企業価値との関連についての開示を求めていることが示されている。ESG評価を受ける企業にとっては、気候開示同様「リスク・機会・指標」を体系的に整理することが必要になるだろう。
本稿では、ISSBが示した人的資本開示の要点を整理するとともに、日本の人的資本開示との関連を踏まえ、企業が今後対応すべきポイントについて考察する。
|ISSB・人的資本開示とは(最新動向まとめ)
ISSBは、国際的に整合したサステナビリティ開示基準を整備するために、2023年にIFRS S1(一般要求)とS2(気候関連開示)を公表した。これにより、企業のサステナビリティ情報開示の基盤として位置づけられ、各国での制度の整備が進んだ。
そして、S1・S2の整備に続く重点テーマが人的資本(Human Capital)と生物多様性(BEES)であり、ISSBでは、両テーマを対象とした基準化への調査研究や検討が2024年から開始されていた。
人的資本については2025年を通じて詳細な調査研究が進められており、12月には基準化に向けた必要性と実現可能性が明確に示され、国際基準としての整備が最終段階に入りつつある。
当該調査研究によれば、人的資本の開示が基準化される場合、独立した開示基準を設けずに既存のIFRS S1を中心に開示基準を補強する形で進む可能性が高いことが読み取れる。
なお、開示基準を補強=「S1プラスアプローチ」とする理由の一つとしてSASBスタンダードなどで業界特有のリスクはカバーされる項目があり開示要求に対応できることが示されている。
|人的資本開示の要求事項とは(ISSB調査)
ISSBは、投資家が人的資本開示においてどのような要求事項を示しているか調査している。その結果、人的資本と企業価値創造との関連性に対する関心が高いことが分かったとしている。
ー企業価値との関係を示す情報
ISSBの調査結果によれば、投資家は人的資本に関する“取り組みそのもの”よりも、企業価値創造との関連性への関心が高い傾向にあるとしている。たとえば、人事制度の詳細、研修プログラムの一覧、エンゲージメント施策の事例など、施策全体の網羅的な説明というよりは、各施策がどのように企業価値に寄与したかなどの「関係」の説明がなどである。
※企業戦略の遂行に不可欠な労働力(critical workforce)が誰であり、その確保・維持・育成にどのようなリスクや機会が存在するのか、そしてそれが財務や価値創造にどのような影響を及ぼすかという“因果関係”など
【具体的開示項目】
(戦略)
・人的資本に関連するリスクと機会:人的資本に関するリスク・機会を体系的に特定し、構成・能力・条件((composition / capability / conditions)などの発生源を整理。
・事業モデルおよびバリューチェーン:事業モデルおよびバリューチェーンのどこに人的資本関連のリスク・機会が集中しているか説明。
・戦略および意思決定:企業の人的資本に対する方針や管理方針と、企業全体の戦略との関連を記述
・レジリエンス(耐性・持続性):労働力の構造、依存度、業務プロセスの柔軟性など、回復力や持続性に関する説明
(リスク管理)
・リスク評価に関する情報:人的資本に関するリスクをどのように識別・評価・優先順位づけ・モニタリングしているかを示す
この先では、投資家が人的資本の開示においてどのような指標に関心を寄せているか、考察をしていく。
- 投資家が重視(改善を求める)主要指標9項目の詳細
- 有価証券報告書の人的資本開示との関係
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執筆者紹介
![]() | 竹内 愛子 (ESG Journal 専属ライター) 大手会計事務所にてサステナビリティ推進や統合報告書作成にかかわるアドバイザリー業務に従事を経て、WEBディレクションや企画・サステナビリティ関連記事の執筆に転身。アジアの国際関係学に関する修士号を取得、タイタマサート大学留学。専門はアジア地域での持続可能な発展に関する開発経済学。 |


