TNFD時代の企業の水リスク対応入門:評価・開示強化の実務ポイント

2026年1月、国連大学 水・環境・健康研究所(UNU-INWEH)は「Global Water Bankruptcy(地球規模での水破産)」レポートを公表した。レポートによると、世界的な「水ストレス」が安全な水準を超え、一部の地域では「水ストレス」や「水危機」では捉えきれない「水破産」の局面に入ったとしている。水破産とは、長期的な水利用が再生可能な流入量と安全な枯渇限界を超え、水関連の自然資本が回復困難な水準で毀損する状態を指す。

日本企業のサステナビリティ実務では、この分析をどう受け止め、どのような対応が求められるのか。
本稿では、①レポートで示される水資源の状態と原因、②サプライチェーンにおける具体的な水リスクと機会、③自社の水リスク耐性を高めるための実務ポイントと、既存フレームワークの活用例(チェックポイント)を整理する。

水資源の現状と水リスク発生の原因(国連レポート

「水破産」とは、一部の流域・帯水層で水利用が再生可能な枯渇限界を超え、河川・湖沼・地下水・湿地・土壌・氷河などの水関連の自然資本が現実的に完全回復が見込めない水準に達している状態を指す。

水破産が明確に現れている地域としては、高い水ストレスと気候の脆弱性に加え、水の浄化に伴うエネルギー負担が重なる中東・北アフリカと、地下水に依存した農業と都市化が進み、地下水位の低下や地盤沈下が起きている南アジアの一部が代表例として挙げられている。なおUNU-INWEHは、この状況に至った背景として、慢性的な地下水の枯渇、水利権等の過剰配分、土地・土壌の劣化、森林減少、汚染といった要因が、地球温暖化と相乗して水システムの劣化を進めてきた点を挙げている。

こうした要因が積み重なり、水の供給力そのものが低下している以上、従来のような一時的な「緊急措置」では不十分であり、水という資本の制約を前提にした「破産管理」(bankruptcy management)への転換が必要だと提起している。水資源の破産管理とは、透明な「水会計」、利用量の上限設定、計画的な貯蓄などを組み合わせて運用する水ガバナンスのことである。

サプライチェーンにおける具体的なリスクと機会は?

先述の通り、全ての国・流域が「水破産」状態に至っていないものの、各地の重要な水システムが回復可能な閾値を超えているため、貿易・移動・調達などのバリューチェーン関係を通じてリスクが連結する可能性が高い。つまり、水破産リスクが高い地域で自社が直接操業していなくても関連し得る問題になりつつある。

日本企業にとっても、拠点が比較的リスクの低い地域にあっても、サプライチェーンの上流、つまり原材料、部品、エネルギー等の調達や販売市場が国際的につながる以上、影響は自社の外として切り分けにくい。例えば、TNFDが先日発表したIT産業の水依存によるリスクに焦点を当てるケーススタディ「Nature-related issues in the technology sector: Dependence on water by the semiconductor and data centre industries」では、具体的に以下の水リスクが提示されている:


つづきは無料会員登録(名前・メール・会社名だけ入力)を行うと閲覧可能!!

🔓会員登録の4つの特典

話題のサスティナビリティニュース配信

業務に役立つオリジナル解説

業務ですぐに実践!お役立ち資料

会員特別イベントのご案内!

すでに登録済みの方はログイン



<執筆者

マルティネス リリアナ(ESGJournalスペシャリストライター)
サステナビリティ学修士。シンクタンクにて、海洋・大気環境分野を中心とした環境政策・制度検討支援(調査・分析)に従事。また、国際海事機関(IMO)における海洋環境関連条約の技術・政策議論にTechnical Advisorとして参画した経験を持つ。その後、 Big4 ファームにて、気候変動、ネイチャー課題を中心とした企業向けアドバイザリー業務に従事。現在は 非財務情報開示フレームワークからサステナビリティを巡る国際動向まで、企業実務の視点からオリジナル解説およびホワイトペーパーを執筆。

関連記事一覧