【ESG 企業分析⑤】取締役にC”ESG”Oが存在!不二製油グループが力を入れたマテリアリティ特定プロセス

こんにちは!ESG Journal編集部です。

本記事はESG / SDGsに力を入れて取り組んでいる上場会社の事例を取り上げるシリーズになります。

第5弾として、本日は不二製油グループ(以下不二製油)を取り上げたいと思います。

不二製油グループ

製菓・製パン素材、油脂、大豆たん白の三事業が軸。海外売上高比率約4割。アジアを中心に展開。米州が強化拠点。今後は、大豆事業と機能性向付加価値事業の高付加価値商品に注力。また、同じ伊藤忠傘下ファミリーマートとの共同開発を強化する。

出所:SPEEDA、会社公表資料より作成

CSR/ESGにおける対外的評価

優れた統合報告書(GPIF調査):4運用機関が選定

・サステナビリティ戦略の重要度分析、進捗率等、多岐にわたる調達構造を持つ食品企業が、ここまでサプライチェーンマネージメントに踏み込んで具現化して開示している点が評価できる
・CFO による財務戦略が詳細に記載されており、また、短期実績、中期計画、長期方針が示され時間軸で企業を評価するのに役立つ
・ESG を含め、各チーフ・オフィサーによる報告形式の説明はユニークであり、内容の納得性も高い。

出所:「GPIF の国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」GPIF(2021/2/24)

ESG活動の起点となるマテリアリティの特定

不二製油は、東証のESG情報開示におけるインタビューの中でESGとマテリアリティについて、次のように語っています。

事業活動を通じて「社会の持続可能な発展への貢献」と「自社の持続的な成長・社会への価値創造」をともに実現するために、ESGに関するマテリアリティとして「ESG経営の重点テーマ」を定めています。マテリアリティを特定することで、優先度を上げて経営資源を投入すべき社会課題が明確化し、メリハリのあるESG活動が可能となります。

出所:日本取引所グループ「上場会社のESG情報開示事例」

マテリアリティ特定プロセス

マテリアリティの特定・見直しは年1回実施しているようです。2020年度のマテリアリティは、ステークホルダーとの対話を通して得られた助言(新たに考慮すべき社会課題など)を考慮した上で、以下の4つのステップを経て特定したとのことです。

STEP1:評価対象となる包括的な社会課題リストを作成
STEP2:マテリアリティマップによる重要性評価
STEP3:ESG委員会におけるマテリアリティの妥当性評価
STEP4:取締役会による承認

2020年度に特定された19の重点テーマは、ステークホルダーに理解してもらい易くすることを目的に、内容の類似性の観点で12の重点領域によりグループ化し、以下のように開示しています。

画像1

出所:東証・不二製油開示資料より弊社作成

上記19の重点テーマには、各テーマを管掌するCxOが設定され、CxOはコーポレート部門、事業部門、研究開発部門からテーマの推進責任者を任命します。推進責任者はテーマの目標・KPIの設定および活動計画を策定するとともに、日常業務の中で設定した活動に取り組んでいます。

マテリアリティマップ

特定された課題は以下のようにマッピングされ、19のテーマの重点領域が視覚的に分かるようになっています。

画像2

出所:サステナビリティレポート2020

C”ESG”Oとマテリアリティの取り組みを推進するESG委員会

各テーマを管掌するCxOがいるのは驚きですが、その中でも最高ESG経営責任者(C“ESG”O)がいるのは非常にユニークですね。最新の統合報告書ではC”ESG”Oは以下のように語っています。

画像3

出所:統合報告書2020(P.75)

またESG委員会が存在し、推進責任者の策定した活動計画と半期ごとの進捗報告内容を確認し、必要に応じて推進責任者と対話の場を設け、懸念事項の共有や対策の検討をともに行っています。

ESG委員会では、推進責任者から報告される進捗状況のレビューをはじめ、さまざまなESG活動に関する審議が行われます。審議結果については、後日ESG委員会事務局が取締役会へ報告し、取締役会からレビューを受けています。取締役会で得た助言をもとに、ESG委員会事務局が推進責任者と連携し、課題の改善に取り組むPDCAサイクルを回しています。

画像4

出所:統合報告書2020(P.81)

不二製油のESG情報開示の考え方

推進責任者の取り組みをはじめ、不二製油グループのESG活動は「統合報告書」と「サステナビリティレポート」により年次で報告されます。それぞれのレポートは、制作目的と対象読者を明確化した上で、読者の関心事項に沿う情報開示に努めています。

画像5

統合報告書を活用した機関投資家とのエンゲージメント

「マテリアリティとそれぞれの目指す姿、目標、管掌CxOが一目で分かる全体像を、統合報告書において掲載しています。統合報告書を発行後、不二製油グループ本社 財務・経理グループIRチームが主体となって投資家との対話を重ね、開示の改善点や、投資家の認識する経営課題の把握に努めています。対話においては、主となるテーマに応じたCxOが同席するなど、積極的な経営陣とのエンゲージメントにも取り組んでいます。また、投資家との対話によって得られた課題点はタイムリーに経営陣へ共有し、経営の改善へつなげることを目指しています。」

出所:統合報告書2020 P.80-81

ESG情報開示担当者の声

「不二製油グループでは、統合報告書発行を担う財務・経理グループIRチームとサステナビリティレポート発行を担うESG経営グループCSRチームが連携してESG情報開示に取り組んでいます。それぞれの報告書の企画段階から、開示の方向性や前年の課題についてともに議論し、読者視点で内容の改善に努めています。
情報開示は、投資家からの開示要請と変わりゆく社会の関心事項を的確に理解することから始まります。そのため、IRとCSRチームメンバーがそれぞれの専門性を高め、蜜にコミュニケーションをとれる関係性を築くことが大切であると考えています。また、推進責任者をはじめとした各テーマ・業務の社内専門家との連携も不可欠です。今後も、当社グループ一丸となってステークホルダーの期待に応える情報開示に努めてまいります。」

出所:日本取引所グループ「上場会社のESG情報開示事例」

最後に

不二製油グループのESGに関する取り組みはいかがでしたでしょうか。C”ESG”Oという独自ポジションの設立や、各チーフ・オフィサーによる報告形式の統合報告書は非常にユニークなので、是非参考にしていただければと思います。

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次回第6回は積水化学のESG開示分析です。お時間がある方は前回の味の素の記事も是非ご覧ください。

【ESG 企業分析⑥】ESGへの投資額は400億円!国からも評価される積水化学のESG経営戦略

【ESG 企業分析④】遂にESGを事業戦略に組み入れ!2030年に向けた味の素のESG経営とは

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