7月25日、英エネルギーデータ大手ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)が発表した「New Energy Outlook: Japan」によると、2050年までに日本がネット・ゼロへ移行するためには、少なくとも6兆7,000億ドル(約千兆円)の投資機会があるという。
本報告書では、日本のエネルギーシステムに関する2つのシナリオと、日本のエネルギーシステム移行に伴う機会と課題について詳述している。ベースケースの経済移行シナリオは、2100年までの世界の気温上昇を2.6℃とし、経済主導の移行を描いている。2つ目のネット・ゼロ・シナリオは、2050年までにネット・ゼロ・エミッションを達成し、オーバーシュートや実証されていない技術に依存しないものである。
本報告書では、電力セクターの脱炭素化が日本の転換の鍵を握ると指摘した。日本では、再生可能エネルギーによる発電容量の増加が遅れていることに加え、原子力発電所の再稼働が遅れているため、クリーンな発電に関してG7諸国の中で遅れをとっている。BNEFの分析によれば、太陽光発電と風力発電を最大限に導入し、火力発電所のエネルギー貯蔵と炭素回収・貯留(CCS)を追加し、既存の原子力発電所を再稼働させることが、日本が電力供給を脱炭素化する最も安価な方法であるとした。また、豊富な地熱ポテンシャルの活用についても述べた。
BNEFのネット・ゼロ・シナリオ(NZS)では、世界の気温上昇を2度以下に抑えつつ、2050年までに日本がネット・ゼロに到達する道筋を描いており、風力発電と太陽光発電の総設備容量は2050年までに689ギガワットに達し、2021年時点の81ギガワットの8倍以上になる。風力発電と太陽光発電を合わせると、2050年にNZSで供給される電力の79%を占め、原子力発電は11%を供給する。残りの需要は、CCSを備えた水力、地熱、火力発電所で賄われる。BNEFのベースラインシナリオである経済移行シナリオ(ETS)の下でも、最小コストの電力系統モデリングによれば、2050年には太陽光と風力が発電量の62%を占め、依然として電力供給の主流となっている。
ETSの下では、エネルギー需給への投資は2022年から2050年にかけて3兆2,000億ドル(約470兆円)に達する。BNEFのNZSによれば、ネット・ゼロの軌道を維持するためには、日本は同期間の投資率を2倍以上、年平均2,390億ドル(約35兆円)にする必要がある。化石燃料電力への総投資額は、ETSの6,090億ドル(約90兆円)からNZSの3,590億ドル(約52兆円)に減少する。NZSに残る化石燃料の使用による排出を削減するためには、日本はCCSのために3,150億ドル(約46兆円)の投資が必要である。両シナリオとも、エネルギー需要に対する投資で最も大きな割合を占めるのはEVの販売である。NZSでは、3.8兆ドル(約550兆円)がEVの導入に費やされる。
エネルギー転換の加速については、日本は、系統接続プロセスの透明性を高め、許認可プロセスを短縮・簡素化することで、再生可能エネルギー開発事業者が直面するハードルを下げる必要があるとした。自然エネルギーの導入は、土地(洋上風力の場合は海底)へのアクセスと系統接続を保証する地方政府主導の逆オークションを組織化することによっても加速できる。
非効率な水素補助金の改革の必要性についても指摘した。日本の過去の水素政策は、燃料電池乗用車や家庭用燃料電池コージェネレーションシステムなどの用途に手厚い補助金を提供してきた。しかし、乗用車や住宅を脱炭素化するには、水素よりもCCSへの投資が重要になると見解を示した。
【参照ページ】
(原文)Japan Can Meet Net-Zero Goal With Minimal Reliance on Hydrogen, Report Shows
(日本語訳)BNEF、日本のネット・ゼロ目標について達成可能との見解を表明