TISFD Beta v0.1の視点 人的資本開示の新たな論点 人権・ウェルビーイングとの関係

Cover image for a report: Japanese title asks 'What will be asked of companies after human capital disclosure?' with scales of justice and a gavel in the background, plus a blue gradient banner reading 'TISFD Beta v0.1の視点'.

人的資本開示は、有価証券報告書の記載項目として定着してきた。2026年3月期からは、有価証券報告書で、連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略の開示も求められるようになった。開示の焦点は、自社の人材が経営戦略の実現をどう支えるかにある。

この「採用・育成・配置・エンゲージメント施策が、どう収益や競争力強化につながるか」という問いの立て方に、国際的な議論は別の角度を加えようとしているのがTISFD(Taskforce on Inequality and Social-Related Financial Disclosures)の新たな開示フレームワーク案。

本稿では、人的資本や人権の開示を考える材料として、TISFDがこれらをどう捉えているのか、また、その開示提言案が人的資本開示や既存の人権デュー・ディリジェンス(人権DD)と何が異なるのかを整理する。

TISFDとは?

TISFDフレームワークのBeta版が2026年5月に公表され、現在は意見募集期間中に寄せられた意見を踏まえた次版の検討が進んでいる。同枠組みの特徴は、人権、ウェルビーイング、人的資本・社会関係資本を、人に関わる社会課題を捉える相互補完的な概念として位置付けている点にある。この整理は、これらを別々の課題として扱ってきた実務に、考え方の見直しを促すものといえる。

TISFDにおける人的資本開示とは?

これまで、人的資本、人権、ウェルビーイングなどは、別々のテーマとして整理されることが多かったと言える。

人材戦略は、有価証券報告書の新設項目「人材戦略に関する基本方針等」で今年から開示が求められるようになった。
日本の有価証券報告書には、人権に特化した一律の開示項目は設けられていない。一方、政府が2022年に策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」などに沿って、人権方針や人権デュー・ディリジェンスという形で進んできた。

TISFDの初期案(Beta v.0.1)では、人権、ウェルビーイング、人的資本・社会関係資本の3つを、同じ「人」に関わる状態や関係を捉える相互補完的な概念として位置付けている。

具体的にTISFDは、人の状態が安全性、健康、住居、所得、発言権、包摂といった多面的な側面から成るとし、その把握には3つの視点が必要だとしている。

健康を例に取ると、人権の視点では安全で健康的な労働環境への権利が侵害されていないかを問う。ウェルビーイングの視点では心身の健康が保たれているかを問う。人的資本・社会関係資本の視点では、健康状態が能力の発揮や職場の協力関係に影響していないかを問う。同じ健康という事象に対し、権利、生活の状態、組織への価値という3つの問いが立つ。どれか1つでは全体を捉えられないという整理である。

TISFDの開示提言全体の前提に置かれているこの3つの視点や、企業業務への示唆については、ESG Journalのお役立ち資料「TISFD Framework Beta v0.1を読み解く」で詳しく整理している。詳細にTISFDを把握したい方は、合わせて読んでいただきたい。

関連お役立ち資料ダウンロード:

TISFD Framework Beta v0.1の全体像を知りたい方はこちら

TISFDの中核概念から、SSBJ・CSRD・TCFD/TNFD・人権DD・評価機関対応との接続ポイント、 今後の最終版公表に向けて準備すべき論点まで整理しています。

TISFD Framework Beta v0.1を読み解く

TISFDにおいて企業と人の関係をどう説明するのか?

TISFDは、TNFDと同様、企業の関係を影響、依存、リスク・機会の4つを指す「IDROs」として整理している。このうちリスク・機会は、TCFD以降の4本柱型の開示で扱われてきた概念であるが、依存と影響は人的資本開示では比較的新しい考え方でもあるため、「人」という文脈で簡単におさらいしたい。

TISFDにおける「依存」と「影響」の考え方とは?

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続きでは、TISFDが「依存」と「影響」をどう定義し、既存の開示実務とどこで接続するのかを具体的に整理します。

・TISFDにおける「依存」と「影響」の考え方と、事業活動に即した具体例
・2026年3月改訂の人的資本可視化指針との違い(「影響」を捉える対象範囲と観点)
・人権DDとの接続点と、TISFDが挙げる既存枠組みの限界

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<執筆者

マルティネス リリアナ(ESGJournalスペシャリストライター)
サステナビリティ学修士。シンクタンクにて、海洋・大気環境分野を中心とした環境政策・制度検討支援(調査・分析)に従事。また、国際海事機関(IMO)における海洋環境関連条約の技術・政策議論にTechnical Advisorとして参画した経験を持つ。その後、 Big4 ファームにて、気候変動、ネイチャー課題を中心とした企業向けアドバイザリー業務に従事。現在は 非財務情報開示フレームワークからサステナビリティを巡る国際動向まで、企業実務の視点からオリジナル解説およびホワイトペーパーを執筆。

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