SBT認定の取得が企業の間で進んでいる理由とメリットを簡潔に解説。

SBT「Science Based Targets」は、パリ協定(2015)を基準とする企業の排出削減目標であり、京都議定書の枠組みに変わる目標として国際的に注目されている。世界的にみても、SBT認定に参加を表明する企業は、2022年時点で2,500を超えており、2021年からの増加率は90%以上。国内でも200社を超える参加があり、関心が高まっている。一方で、なぜこれほどまでにSBT認定への参加(取得)が進んでいるのかメリットを詳細に把握していない場合も多いだろう。SBT認定の概要から取得までの流れおよびメリットについて紹介する。

SBTの概要

SBTとは

SBT(Science-Based Targets)は、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標の一つであり、企業の温室効果ガスの排出量が、パリ協定が求める水準と整合することを目指す。※地球温暖化を1.5°C未満に抑えるために必要な取り組みを企業に求める。

SBTは、CDP(Carbon Disclosure Project)、UNGC(United Nations Global Compact)、WRI(World Resources Institute)、WWF(World Wide Fund for Nature)の4つの機関が共同で運営されている。

SBTで注視すべきは、削減対象の排出量を「サプライチェーン排出量」に定義している点だ。サプライチェーンの排出量は、次の3つのスコープ(Scope)に分けられており、考え方はTCFDと同様な部分もある。

  • Scope 1排出量:直接的な排出源からの排出(例:工場からの排ガス)。
  • Scope 2排出量:電力や蒸気などの間接的な排出源からの排出(例:購入した電力の排出)。
  • Scope 3排出量:サプライチェーン全体にわたる間接的な排出源からの排出(例:原材料の生産、輸送、廃棄物処理など)。

SBTは、認定制度を設けており、認定を取得することで、削減目標が科学的に妥当であることを証明することができる。対外的に削減目標の達成度を提示できるので、外部ステークホルダーや投資家に信頼性を示すことにつながるだろう。

SBT認定基準

SBTの実現に取り組む企業は、審査書類の提示により「認定」を取得することができる。認定の基準は次のとおり。

バウンダリ(範囲)企業全体(⼦会社含む) のScope1及び2をカバーする、すべての 関連するGHGが対象
基準年・目標年・基準年はデータが存在する最新年とすることを推奨 ・⽬標年は申請時から最短5年、最⻑10年以内*
目標水準気温上昇を1.5℃以内に抑える目標設定
・最低でも、産業革命前と比較して世界の気温上昇を1.5℃以内に抑える削減目標を設定しなければならない。・SBT事務局が認定するSBT手法に基づいて目標を設定する。・総量同量削減の場合、毎年4.2%の削減が必要。
Scopeを複数合算可能な目標設定
・Scope1(直接的な温室効果ガス排出)、Scope2(間接的なエネルギー関連温室効果ガス排出)、Scope3(その他の間接的な温室効果ガス排出)を複数合算して目標を設定できる。・ただし、Scope1+2およびScope3の両方でSBT水準を満たすことが前提。
他者のクレジットは算入不可
・他者からのクレジットの取得による削減、またはその他の削減貢献量は、SBT達成のための削減には算入できない。
Scope21.5℃シナリオに準ずる割合で再エネ電力を調達することは、Scope2排出削減目標の代替案として認められる。
Scope3・Scope3排出量がScope1+2+3排出量合計の40%以上の場合、Scope3目標の設定が必要。
・Scope3排出量全体の2/3をカバーする目標を、以下のいずれかまたは 併用で設定することが求められる:
 〇総量削減:世界の気温上昇が産業革命以前の気温と比べて2℃を十分に下回るよう抑える水準(毎年2.5%削減)に合致する総量排出削減目標。  
 〇経済的原単位:付加価値あたりの排出量を前年比で少なくとも7%削減する経済的原単位。
 〇物理的原単位:部門別脱炭素化アプローチ内の関連する部門削減経路に沿った原単位削減。もしくは、総排出量の増加につながらず、物量あたりの排出量を前年比で少なくとも7%削減する目標。  
 〇サプライヤー/顧客エンゲージメント目標:サプライヤー/顧客に対して、気候科学に基づく排出削減目標の設定を勧める目標。
報告企業全体のGHG排出状況を毎年開⽰
再計算最低でも5年ごとに⽬標の⾒直しが必要

SBT認定取得のメリット

SBT認定の取得は、企業にとって投資家からの高い評価を受け、同時にサプライチェーンのリスクを効果的に管理することができる。また、サプライチェーンリスクに対する積極的な対策を講じることで、不確定要素の多い気候変動リスクを軽減する。

投資家からの評価向上

SBT設定は、事業の持続可能性をアピールでき、CDPの評価などで高く評価されるため、投資家からのESG投資の呼び込みに役立つ。2017年以降のCDP質問書では、SBT認定を受けていると、「リーダーシップ」の得点を獲得できる。
SBT認定は、投資家との関係強化につながり、一方で投資家も長期的な投資の展望が立つ。SBT認定がCDPでの得点を獲得できるのは、業界内において、温室効果ガス排出抑制の取り組みの拡大を期待されているためといわれている。

サプライチェーンのリスク管理につながる

SBT認定を取得していることで、サプライヤーや取引先のサプライチェーンマネジメントの要請への対応につながる。サプライチェーンのサステナビリティリスクは、世界的にも関心の高い分野であるため、取引先からの調査や要請に対応するためにも、認定の取得があるとよいだろう。なお、SBTへのコミットメントはブランド評価向上や競争力の強化にも寄与する。

参加企業の一覧

2022年10月現在、79カ国から3,776社の企業がSBTへの取り組みを行っている。SBTに取り組んでいる企業は、「SBT認定取得済企業」と「SBT認定コミット中企業」に分かれる。認定取得済企業は、既に世界基準の削減目標をクリアし、認定を受けた企業を指し、コミット中企業は、2年以内にSBT設定を目指して取り組んでいる企業を指す。イギリスが293社で最も多くのSBT認定取得済企業を有し、日本は277社で2番目に多い国である。認定済企業が多い業種は世界だと食料品関係だが、日本においては電気機器、建設業が多い傾向にある。※詳細は参考情報参照

SBT認定取得のポイント

中小企業においては、新たに認定などを取得するには負担を感じる可能性がある。SBT認定の取得を検討している場合には、以下のポイントが参考になるだろう。

社内の実行委員会の設置

取得企業:樋口製作所(本社:岐阜県各務原市)

樋口製作所は、環境に対する高い関心から、CN委員会を設立し、中小企業向けSBT認定を取得した。特に、自社の排出量を確認し、業界平均値を大幅に下回ることを示し、環境への貢献を強調した。社内での情報共有では、排出量を具体的に説明し、従業員の理解を促進。SBT認定は従業員の意識向上に寄与し、電力使用量削減などの取り組みが自発的に始まった。今後はSBTに焦点を当てつつ、GHG排出量削減の特別チームを組織し、CEOのコミットメントと関連部署との連携を重視して取り組む予定だ。

(参考記事)ジェトロ:取得企業に聞く、認定を受けるまでの道のり(日本)

データ管理を日常的に実施する

取得企業:東洋産業(本社:岐阜県安八郡輪之内町)

東洋産業は脱炭素への積極的な取り組みを行っており、排出量の確認とデータ管理が重要でとなっている。具体的には、燃料の種類と排出係数を確認し、取引先銀行の支援を受けてSBT認定を取得した。主要な排出源は軽油を使用するダンプカーと重油を利用するボイラーであり、再生可能エネルギー導入の制約がある。現在、LED化や高効率な空調システムの導入など実施可能な措置に取り組んでおり、データ管理と排出量の見直しは環境に対する責任を果たすために不可欠である。

(参考記事)ジェトロ:取得企業に聞く、認定を受けるまでの道のり(日本)

専門家の支援を受ける

SBT認定取得において銀行などの専門家の支援を積極的に活用することは、持続可能なビジネス戦略を効果的に実行するための鍵となる。特に、銀行などの金融機関は、企業が持続可能な環境戦略を実現するために貴重なパートナーとなり得る。

SBT認定手順

上記のSBT(Science-Based Targets、科学的に根拠づけられた目標)申請までの流れは、以下の6つのステップがある。

  1. 「Commitment Letter」提出: 2年以内にSBTを設定する意向を表明する「Commitment Letter」を事務局に提出する。
  2. 目標設定: 目標を設定し、「目標認定申請書(Target Submission Form)」を事務局に提出する。
  3. 目標審査: SBT事務局が提出された目標の妥当性を確認・審査し、結果はメールで通知される。
  4. 公表: 認定された場合、SBT等のウェブサイトにて公表される。
  5. 進捗報告: 年1回、排出量と対策の進捗状況を報告し、開示する。
  6. 目標再評価: 定期的に目標を再評価し、必要に応じて再設定する。最低でも5年に1回は目標の再評価が必要。

まとめ

SBT認定は、企業の温室効果ガス排出削減目標で、国際的な注目と科学的根拠に基づいている。これにより、投資家からの評価向上やサプライチェーンリスク管理、ブランド評価向上、社内意識向上、サプライチェーンへの要求対応、競争力向上、環境への貢献が実現する。企業にとって持続可能性と競争力を高め、環境への貢献を強調する重要なステップとなる。

参考情報)

(SBT認定取得済企業一覧)

建設業安藤・間/熊谷組/ジェネックス/清水建設/住友林業/積水ハウス/大東建託/大成建設/大和ハウス工業/高砂熱学工業/東亜建設工業/東急建設/戸田建設西松建設/長谷エコーポレーション/前田建設工業/LIXILグループ
食料品アサヒグループホールディングス/味の素/カゴメ/キリンホールディングス/サントリー食品インターナショナル/サントリーホールディングス/日清食品ホールディングス/日本たばこ産業/不二製油グループ/明治ホールディングス/ロッテ
繊維製品帝人
化学花王/コーセー/小林製薬/資生堂/住友化学/積水化学工業/高砂香料工業/ポーラ・オルビスホールディングス/ユニ・チャーム/ライオン
医薬品アステラス製薬/エーザイ/大塚製薬/小野薬品工業/参天製薬/塩野義製薬/大鵬薬品工業/第一三共/武田薬品工業/中外製薬
金属製品YKK AP
ガラス・土石製品TOTO/日本板硝子/日本特殊陶業
非鉄金属住友電気工業/古河電気工業/YKK
機械小松製作所/DMG森精機/ナブテスコ/日立建機
電気機器アドバンテスト/アンリツ/アズビル/ウンオ電機/E1Z0/オムロン/カシオ計算機/京セラ/コニカミノルタ/シャープ/ SCREENホールディングス/セイコーエプソン/ソニー/ソニーグループ/東芝/日新電機/日本電気/浜松ホトニクス/パナソニックホールディングス/日立製作所/ファナック/富士通/富士フィルムホールディングス/ブラザー工業/三菱電機/村田製作所/明電舎/ヤマハ/リコー/ローム/ルネサスエレクトロニクス
輸送用機器トヨタ自動車/日産自動車
精密機器島津製作所/テルモ/ニコン
その他製品朝日ウッドテック/アシックス/オカムラ/コマニー
印刷大日本印刷/凸版印刷
海運業川崎汽船/日本郵船
空運業国際航業
情報・通信業SCSK/エヌ・ティ・ティ・データ/NTTドコモ/KDDI/ソフトバンク/TIS/日本電信電話/野村総合研究所
小売アスクル/イオン/フロントリティリング/ファーストリティリング/ファミリーマート/丸井グループ
不動産東急不動産ホールディングス/東京建物/野村不動産ホールディングス/ヒューリック/三井不動産/三菱地所
サービス業セコム/電通/ベネッセコーポレーション
中小企業アークエルテクノロジーズ/愛幸/アイミクロン/アイリーシステム/アイレック/アキスチール/あおいと創研/アサヒ繊維工業/アスエネ/アセンテック/アルテック/アルメタックス/アローエム/アロック・サンワ/アンスコ/E-konzal/市川鉄工/岩田商会/ウィング/ウェイストボックス/上田商会/内海産業/ウフル/栄四郎瓦/ARC/エコスタイル/エコ・プラン/エコワークス/ES/エスピック/エネクラウド/エネルギーソリューションジャパン/FC大阪/MIC/エレビスタ/0SW/オークマ/大川印刷/大阪故鉄/大野建設/岡本工機/奥地建産/Ozaki Co.,Ltd./オリザ油化/カーボンフリーコンサルティング/会宝産業/CAGLA/カジケイ鉄工/春日井資材運輸/片桐銘木工業/Kabbara/カナック/加山興業/河田フェザー/河村産業/甘強酒造/樹昇/岐阜産研工業/キョーテック/共愛/興栄商事/協同電子工業/協発工業/ゲーン/グロービング/KDC/ゲットイット/光陽社/ゴウダ/ Kowa Seisakusyo Co. Ltdコクボホールデイングス/Common keiso Ltd./最原工業/棚原器イサハン特殊無/SANSHIN Inc./三喜工作所/サンコーリサイクル/三周全工業/山陽製紙/サンワインダストリー/ジャパンリアルエステイト投資法人/真空セラミックス/新世日本金属/新日本印刷/新日本金属工業/親和建設/スザキ工業所/鈴木特殊鋼/スタジオオニオン/セイキ工業/精器商会/創桐/大幸製作所/ダイドー/大同トレーディング/大富運輸/タイヨー/ダイワテック/大和ハウスリート投資法人/高千穂シラス/高橋金属/内木材工業/タニハタ/テラオホールディングス/中興電機/中部産業連盟/中部テプロ/艶金/TSK /TBM/デジタルグリッド/東洋硬化/東洋産業/トータルクリエート/栃木県集成材協業組合/Drop/中島田鉄工所/中日本工/中山精工/西川コミュニケーションズ/日幸製菓/日本アルテック/日本ウエストン/日本エンジン/日本カーボンマネジメント/日本ゼルス/日本宅配システム/日本中央住販/日本電業工作/ネイチャーズウェイ/野田クレーン/HYPER Inc./ハーチ/Vaio/ハウテック/浜田/原貿易/ハリタ金属/Value Frontier/樋口製作所/日の丸自動車/藤久運輸倉庫/富士凸版印刷/藤野興業/平成工業/平和不動産/北米産業/増田喜/まち未来製作所/松岡特殊鋼/マルイチセーリング/丸喜産業/MARTO/丸東/MaruyouKensetu Co., Ltd./水生活製作所/ミズタニバルブ工業/三重エネウッド/ミクニ機工/三星毛糸/三峰環境サービス/宮城衛生環境公社/都田建設/室中産業/Meikou Co.,Ltd./メイユー/八洲建設/山一金属/ヤマゼン/山本機械/豊ファインパック/ユタコロジー/ユニバーサルコムピューターシステム/ライズ/RIKo Industrial Co., Ltd./Wood Life Company/リマテックホールディングス/レックス/レフォルモ/ワード

(出所:)環境省【SBTへの取り組み状況】

(参考情報)SBTとは?取り組むメリットや日本の認定企業を紹介

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