
11月、国際資本市場協会(ICMA)は、パリ協定の目標達成に向けた新たな資金調達手段として「Climate Transition Bond Guidelines(気候移行債ガイドライン)」を公表した。本ガイドラインは、既存のグリーンボンド原則(GBP)を補完しつつ、特に排出量の多い産業・活動分野における脱炭素化投資を促進するための新ラベル「Climate Transition Bond(CTB)」を導入するものとなる。これにより、エネルギー・重工業などの高排出企業が、自社の移行戦略に沿った資金調達を行いやすくなることが期待される。
ガイドラインは、持続可能な債券市場が再生可能エネルギーやクリーン輸送、グリーンビルディングの分野では広く活用されている一方で、化石燃料や「脱炭素が難しい」産業の移行資金調達には十分に貢献していないという課題認識を踏まえ策定された。ICMAは、2050年までに世界の温室効果ガス排出量の40%を占める8つの主要高排出セクターを脱炭素化するために、追加で約30兆ドルの投資が必要だと見積もっている。
CTBは、資金使途が気候移行プロジェクト(CTプロジェクト)に充てられる「ユース・オブ・プロシーズ型債券」と位置づけられる。対象となるプロジェクトは、再生可能燃料への転換、CCUS(炭素回収・利用・貯留)や炭素除去技術の導入、高排出設備の早期廃止などであり、発行体は自社の移行戦略との整合性、低炭素代替の実現可能性、炭素ロックイン(高排出構造の固定化)リスクへの対応など、厳格な条件を開示する必要がある。
また、化石燃料関連インフラを対象とする場合には、設備の段階的廃止計画や低炭素代替への転換期限、メタン排出の監視、外部監査による検証など、追加的なセーフガードを設けることが求められる。さらに、報告・資金管理・外部レビューの透明性を高めることも推奨されており、年次報告書には資金配分や排出削減効果の定量的指標を含めることが期待されている。
加えて、ICMAは高排出企業向けのサステナビリティ・リンク債(SLB)についても、温室効果ガス削減を主要KPIとすることを推奨し、科学的根拠に基づく排出削減経路(Science Based Targetsなど)との整合性を求めている。今回の新ガイドラインにより、債券市場における「移行金融」の枠組みが強化され、重工業や化石燃料など高排出分野の現実的な脱炭素化を支援する新たな資金の流れが形成される見通しだ。
















