
4月11日、政府は改正された「食料・農業・農村基本法」に基づく初の基本計画を閣議決定した。これは、近年の国際的な情勢不安や気候変動の進行、国内の人口減少や高齢化など、日本の農業・農村を取り巻く構造的な変化を受けて策定されたものであり、日本の農政における大きな転換点となる。
改正基本法は、2024年6月に施行され、従来の基本法の理念を刷新し、環境との調和、食料安全保障の強化、農村の活性化といった新たな価値を盛り込んだ。今回の基本計画は、この新たな理念の具現化を目指し、特に初動の5年間において農業の構造転換を集中的に推進する方針を掲げている。
計画の中心には、食料の安定供給と食料安全保障の確保が据えられている。国内の農業生産力の強化に加え、安定的な輸入体制の確保、戦略的な備蓄の拡充が盛り込まれ、平時から有事に備える体制づくりが意図されている。特に水田政策については、2029年度からの根本的な見直しが示され、水田活用の支援制度を作物ごとの生産性向上や収益性向上に資する仕組みへと転換することが決定された。
農業経営の収益力の向上も重要なテーマである。コメの輸出拡大をはじめ、法人・個人の区別なく農業を生業とする担い手を確保・育成し、農地の集約化と資源の効率的利用を促進する。生産コストの低減には、農地の大区画化やスマート農業技術の導入、情報通信環境の整備などが組み込まれ、技術革新による競争力の強化が期待されている。また、生産資材の安定確保を目的とし、化学肥料の備蓄や国産飼料への転換、種子の自給体制の整備なども推進される。
環境との調和という視点からは、「みどりGX推進プラン(仮称)」を通じて脱炭素化と生産性向上、地域経済の活性化を同時に実現する取り組みが進められる。温室効果ガス削減目標も明示され、農業分野におけるサステイナビリティの実現が重視されている。さらに、食品ロス削減やフードバンク支援といった「食料アクセス」の改善に向けた施策も盛り込まれ、国民一人ひとりの食料安全保障を支える仕組みが強化される。
農村政策においては、人口減少が進む中でも地域社会の維持と多面的機能の発揮を可能にするため、「農村関係人口」の増加に資する経済・生活両面からの支援が打ち出された。「農山漁村経済・生活環境創生プロジェクト」や「地方みらい共創戦略」などを通じて、官民の連携による地域づくりが推進される。農泊や農福連携といった新事業の創出、生活インフラの確保、スマート農業の地域課題への適用など、多面的な施策が展開される。
計画の実効性を担保するため、政府は目標とKPIを設定し、PDCAサイクルによる施策の継続的見直しを実施する方針である。生産者、食品事業者、消費者など、食料システムに関わる全ての関係者の理解と連携・協働が求められており、国民の協力が不可欠であるとされている。
(原文)食料・農業・農村基本計画