
8月21日、米国と欧州連合(EU)は「相互的・公平かつ均衡の取引枠組み(Framework Agreement)」に合意し、経済・通商関係の再構築に乗り出した。本枠組みは、単なる関税撤廃にとどまらず、持続可能な供給網・環境規制・エネルギー調達における協調体制の確立を柱とするものであり、脱炭素と経済安全保障の両立を図る先進的な取り組みと位置づけられる。
環境・エネルギー面での注目点として、EUは2028年までに7500億ドル(約110兆円)相当の米国産LNG・石油・原子力エネルギーの調達を約束し、再生可能エネルギーと並行してトランジション期のエネルギー安定供給を確保する動きを明確にした。加えて、少なくとも400億ドル(約59兆円)相当の米国製AIチップをEUのコンピューティングセンター向けに調達する方針も示されており、グリーン・デジタル双方の産業基盤の強化が狙いとされる。
さらに、欧州の環境規制に対する米国の懸念に対応し、EU側は企業持続可能性報告指令(CSRD)および企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)について、行政負担の軽減や規制の見直しを検討する姿勢を明言。非EU企業への域外適用や、中小企業への過重な責任付与を緩和する方向で調整が進む見込みだ。炭素国境調整措置(CBAM)についても、米中小企業に対する柔軟な対応を追加的に講じることが明記された。
これらの措置は、国際的な気候対応における協調の難しさを背景に、米EU間の制度調和と透明性向上を通じて、グローバルなグリーン経済秩序の再設計に寄与するものといえる。今後は、サステナブルな調達基準や輸出管理、サイバーセキュリティを含む技術基準においても協議が継続される予定であり、グリーントランジションを支える制度基盤として注目される枠組みとなるだろう。
(原文)Joint Statement on a United States-European Union framework on an agreement on reciprocal, fair and balanced trade
(日本語参考訳)相互的、公正かつ均衡のとれた貿易に関する協定に関する米国と欧州連合の枠組みに関する共同声明