
11月、HSBCは、新たな「ネットゼロ移行計画(Net Zero Transition Plan 2025)」を公表し、2050年までにネットゼロ・バンクとなることを目指す最新の方針を明らかにした。同行は、顧客の脱炭素化支援を中核戦略に据えており、金融を通じて移行を支援することが世界経済の強靭性を高めると強調している。
2024年1月に初の移行計画を発表して以来、HSBCは資金調達および自社の排出削減で大きな進展を見せている。2025年上半期には541億ドルのサステナブル・ファイナンスと投資を動員し、2020年からの累計は4,477億ドルに達した。これにより、2030年までに7,500億~1兆ドルの資金提供を目指す中間目標に近づいている。また、融資ポートフォリオにおける温室効果ガス排出を30%削減し、自社の直接排出(Scope 1・2)を2019年比で76%削減した。
HSBCは約4,000社の企業顧客の移行計画を分析し、商業銀行・法人顧客向けの戦略を再設計。脱炭素化に向けた資金や専門知識を重点的に提供している。同行の調査によると、企業顧客の60%が「気候移行を主要なビジネス機会」と捉え、80%が今後3年間で取り組みを加速する意向を示した。HSBCはアジアや中東での強い拠点とインフラ融資の専門性を活かし、移行が最も重要な地域で資金供給を拡大しようとしている。
新計画は3つの柱で構成されている。①顧客支援の強化(顧客の目標に合わせた金融サービスを提供)、②事業運営への統合(経営判断・リスク管理・サプライチェーン全体でネットゼロを考慮)、③協働による推進(政府・規制当局・学界・市民社会と連携し、移行資金の流れを拡大)である。
また、世界的な情勢変化を踏まえ、業種別排出削減目標は「固定値」から「範囲目標(レンジ)」に見直され、より柔軟で現実的なアプローチに刷新された。同行は脱炭素技術の支援にも注力しており、英国のArtemis Technologiesへの投資を通じて、次世代電動船舶などの革新的なクリーンテクノロジー開発を支援している。
HSBCは「現実的で信頼できる移行」を掲げ、既存経済の脱炭素化と新しい低炭素経済の成長を同時に促進していく姿勢を明確にした。
















