こんにちは!ESG Journal Japan編集部です。
本日はESGにおけるGの部分にフォーカスを当て、ESG指標がどの程度役員報酬に組み込まれているのかという点を、日本企業の事例を中心に調査していきたいと思います。
昨今では投資家もESGを投資判断に用いることが増えており、経営陣のインセンティブとしてESGと連動した報酬を導入した会社は外部からの評価も高くなると言われています。また、GRIスタンダードやIIRC、TCFDなどのESG情報の開示基準においても、ESGに関する目標や指標の報酬への組み込みの有無や開示が要求・推奨されています。
日本企業の役員報酬・経営に用いられているESG指標
では実際に日本企業に置いてはどの程度ESG指標が役員報酬に組み込まれているのでしょうか、東証上場企業の時価総額上位500社の開示資料をみたところ、以下のような結果になったそうです。
出所:大和証券 金融調査部「ESG・SDGsに真剣に取り組む企業がすべきこととは?」(2021年1月5日)
上記分類は、①環境指標(CO2排出量、再エネ使用率)、②顧客満足度・外部評価(含むESGインデックスへの組み込み)、③従業員に関する指標(従業員賞与等)の3つの観点からESG指標を報酬と連動させているケースに大別できます。
ただ全体としては具体的な指標を用いているのは500社の内30社程度と、まだまだ少ないことが見て取れます。それでは上記の分類に従って取り組んでいる日本の上場企業を見ていきましょう。
ESGにおける「環境指標」を経営報酬に組み込んでいる企業
セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスは、2019 年4月4日開催の取締役会及び 2019 年5月 23 日開催の当社定時株主総会における各決議を経て、取締役および執行役員(社外取締役を除きます。)を対象として、新たな株式報酬制度として「役員報酬 BIP 信託」(以下「BIP 信託」といいます。)等の導入を行いました。
役員の報酬のうち20%が株式報酬となっており、その株式報酬におけるKPIの一つにCO2排出量が連動しています。なお、CO2排出量は「GREEN CHARENGE 2050」において定められた削減目標に達したか否かで判定されるようです。
出所:IR資料
日本精工
日本精工(NSK)も統合報告書にて、CO2排出量の削減を短期業績連動報酬に組み込んでいます。但し、中長期の株式報酬には連動しておらず、現金報酬としての取り扱いになっているため、中長期的なESGへの取り組み向上という観点からは、セブン・アンド・アイ対比インセンティブの仕組みは弱いと言えます。
出所:統合報告書2020(P.54)
ESGにおける「外部からの評価指標」を経営報酬に組み込んでいる企業
リコー
リコーは、取締役・執行役員の賞与算定式においてESG指標(DJSI)の年次Ratingを組み込んでいます。2020年のIR Dayでは「DJSIは網羅的・多面的な評価であり、フィードバックが細かく改善に結びつけられるため、ESG指標として採用した」と述べています。
出所:IR Day 2020
丸井
丸井の業績連動型株式報酬も、リコーと同様にDJSI Worldに選出されたかどうかが指標の一部に組み込まれています。こちらも株式報酬に連動しており、中長期的なインセンティブプランとなっています。
但し、業績連動の大部分を占めるEPS目標値に実績が達していないということもあってか、現時点で業績連動型株式報酬の賞与は支給されていません。
出所:会社公式HP
ESGにおける「従業員に関する指標」を経営報酬に組み込んでいる企業
ソニー
ESG説明会で開示されたソニーの役員報酬設計もユニークです。役職が上がるに連れ、株価連動報酬の割合が高くなっていき、「財務的な指標に加え、社員の意識調査(エンゲージメントスコア)や品質・環境に関する事項を考慮し、業績連動報酬の達成度を決定」と記載されているように、ESGのS、即ち従業員のフィードバックを評価に組み込む設計としています。
出所:統合報告書2020(P.60)
但し、具体的な評価方法や詳細な報酬の算出等は開示しておらず、まだ制度設計も含めて試行錯誤の段階である、とSONYも述べています。
ESGにおける「外部からの指標・従業員の評価」の両方を経営報酬に組み込んでいる企業
資生堂
資生堂の役員報酬は株式の長期インセンティブ報酬が全体の20〜33%を占めています。
また長期インセンティブに占めるESG指標は、全体の10%を占めると記載されており、社内外の指標が組み込まれていると記載されています。社内外の指標の詳細は残念ながら開示がなかったのですが、著名なESGインデックスへの採用や、従業員からの評価が含まれていると思われます。
出所:会社公式HP
最後に
日本では全体としてESGを役員報酬に連動させている企業数自体が少なく、連動させていても算出方法の開示情報が不十分であったり、株式報酬と連動しておらず中長期的なインセンティブになっていないなど、まだまだ改善の余地があると言えそうです。海外ではESGと報酬の連動が更に工夫されているケースも多いので、こちらは今後別コラムで取り上げたいと思います。
また上記記事以外にも多くの企業のESG開示事例等を取り上げていますので、お時間ある方は是非こちらからご覧ください!
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次回も上場企業のESG開示やESGの最新トレンドについて、詳しく紹介していきたいと思います。
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