【独占取材】大企業の若手・中堅がESG&SDGsに本気で取り組む!「BRIDGEs by ONE JAPAN」プロジェクトとは?【第1回】

2021年現在、大企業をはじめとする多くの企業がESG・SDGsへの取り組みを加速させている。その中で企業の若手・中堅メンバーはESG・SDGsについて何を思い、どのように社内外の活動に向き合っているのだろうか。ESG Journal Japanは、大企業の若手・中堅有志団体の実践コミュニティ「ONE JAPAN」から生まれた、ESG・SDGsに取り組むプロジェクト「BRIDGEs」11名のメンバーに取材した。

第1回インタビューではBRIDGEsの活動目的、運営内容、1,000名以上が参加した初のオンラインイベント開催までの経緯に迫る。

岡井啓明:SOMPOホールディングス 秘書部グループCEOサポート室 課長代理
澤口早苗:リコー 経営企画部 経営企画センター 経営戦略室  スペシャリスト
鈴木貴博:ウーブン・プラネット・ホールディングス ビジネスデベロップメント&ストラテジー マネージャー
濱本隆太:パナソニック イノベーション推進部門 エネルギー事業開発室 主務・プロジェクトリーダー

大企業が動かないと、日本のESG&SDGsは進まない

ー 今回ONE JAPANという一つの大きなコミュニティから「BRIDGEs by ONE JAPAN」という新たなプロジェクトが立ち上がった経緯を教えて下さい。

BRIDGEs発起人の濱本氏。「CO2排出といった社会課題は大企業から進めないといけない」と話す

【濱本】私は大学時代に循環型社会システムの構築を学んでいて、パナソニックに就職後も、スマートホームやエネルギー関連のプロジェクトに関わらせていただいています。

当時、私は新規事業開発の部門におり、スタートアップ企業との協業を進めていました。その中で、社会に対して愚直に向き合い、市場変化を先導していく起業家の方が非常に多いと感じました。

一方で、自分が所属している大企業はESG・SDGsに関する理解は経営幹部・現場も含め、スタートアップの皆様と温度差がありました。

CO2の排出量はパナソニックだけで年間1億トン。スタートアップ100社が束になって全員でカーボンニュートラルを推進しても、全く追いつかない規模です。パナソニックのような大企業が少しでも変われば、一気に環境負荷の軽減は達成できるんじゃないかと思うようになりました。

また昨年4月頃に、当社の経営幹部とネット・ゼロやカーボンニュートラルの取り組みについて会話をする機会がありました。そこで「大企業から進めていかないとこの社会課題は解決できない」という話をしたのが、本プロジェクト発足のきっかけです。

“BRIDGEs”の名前に込めた想い

ー 団体名の「BRIDGEs」にはどのような由来があるのでしょうか?

【濱本】はじめに、大企業の方々約1,000名にESG・SDGsに関するアンケートを取りました。その中で、意外と自分たちはバイアスを持っている、世代間でも考え方に差がある、ということが見えてきました。

たとえば、40〜50代の方やZ世代は想像よりも環境意識が高く、ESG・SDGsの取り組みも積極的に実践しています。それに比べて、自分たちミレニアル世代は中途半端だな、と感じたんですよね。

その中で我々ができることは何かと自問したときに、今後各人がそれぞれの企業で中核を担っていくことを考えると、もっと自分達自身で意識高くかつ主体的にESG・SDGsを進めていかないといけない、と思うようになりました。

そこでZ世代、経営幹部層、年配の方々など異なる世代やセクター、業界の方々をこれまで以上に繋ぎながら新しい価値を産んでいくような役割を担い、世代やセクター間に「橋をかける」という目標と想いを込めて、「BRIDGEs」という名前に決めました。

「多様な世代毎の主張をお互いに理解することが大事」と話すBRIDGES岡井氏

【岡井】毎週、勉強会を重ね、合計50回ほど実施しましたね。やっていくうちに、様々な立場や年齢、国籍によって主張は異なれど、その裏側にある意図を理解することができるようになってきました。

たとえば、40〜50代の経営幹部層と社会人になりたてのZ世代が、ESGやSDGsに取り組もうとした際に表現の仕方がずれてきてしまう。そうなった場合にそれぞれの成し遂げたい世界をお互いに理解する。「OR」ではなく「AND」という言葉を大事にしたい、というのも「BRIDGEs」という名前の由来の一つです。

まずは自らESG&SDGsを実践することから始めた

ー どのように初期メンバーが集まったのでしょうか?

【濱本】ONE JAPANでは、過去にSDGsに関するワークショップを実施したことはありましたが、大きなプロジェクト化の動きはありませんでした。正直なところ、結成時の2020年6月時点では、ESGやSDGsというテーマはONE JAPANの中でも話題になっていませんでした。そもそも課題感がある人が少なかったですね。

それでも「大企業のESGやSDGsに関する取り組みはまだまだ不足している」という課題感は、パナソニックだけでなく他の企業にもあるのではないかと考え、ONE JAPANのメッセンジャーグループでお声がけをさせていただきました。その際に申し込みのあった11名が、今のBRIDGEsの事務局メンバーになっています。

【澤口】私は所属企業のリコーがONE JAPANに加盟しており、経営企画内でESGを担当していたので、他メンバー経由で紹介がありました。当初は何をするのかイメージが全く湧いてなかったのですが、他社の方々とESGの学びを深められるのは面白そうだなと思って参加しました。

【岡井】私はSOMPOホールディングスでグループCEOの秘書部に在籍していることもあり、CEOが「本業を通じて社会課題解決をすることが、SDGsの実現に繋がる。長期的な視点で社会価値を創造していく。」という話をされて、確かになと思う反面、なかなか自分事として実感が持てない状況が続いていました。そんな中、コロナの影響もあり新聞などでESG・SDGsがよく話題になり、もっと深く知りたいと思ったことが、参加理由の一つでした。

ー BRIDGEs結成後、どのような活動をされてきたのでしょうか?

「フェーズごとに様々な活動をしながら一歩ずつ前に進んできた」と話す澤口氏

【澤口】今までの活動を大きく分けると3つのフェーズがあります。第1フェーズが黎明期で、事務局メンバーが興味のあるテーマ毎に、5つのチームに分かれてリサーチしたり、新規事業実践者にアンケートを取ったり、知見の深い方にインタビューさせていただいたりと、定量と定性両方でアプローチしました。初めはまずやってみようと、そこから何か面白い発見に繋がるのではという予感も感じつつ取り組んでいましたね。

第2フェーズとしては、活動開始から2〜3ヶ月経過して、自分たちの活動を通じて発見したことをアウトプットしてみようという時期。各チームでもまとめる作業が必要になってきたり、自然と助け合っていきました。第3フェーズはイベント開催のための準備期間。具体的な日程が決まってからはプロジェクトマネジメントをしながら、各自がやりたいこと・得意なことベースでタスクを割り振り、皆でフォローしあいながら動いてきました。


【濱本】第1フェーズはまず、ESGやSDGsをざっくり勉強することから始まりました。しかし、やればやるほど、領域の広さを知り、非常に難しいなと痛感しました。海外はだいぶESGへの感度が高いので、グローバル企業はどんなことやっているのか、などを中心に一から勉強しましたね。

「とりあえずESG投資を自分でやってみれば、考えが変わるんじゃないか」ということで実際に株式投資もしましたよね。いざやろうとすると「サステナブルな会社って何?」という状況。そこで、メンバーの共通ルールとしてESGの観点で、10年後に成長していると思える企業に投資しようと決めました。証券会社に行って話を聞いたり、各社の決算レポートや社長インタビュー記事を見たりしました。

実際に投資すると、目の前の株価や配当に一喜一憂してしまう、お金の魔力を肌で感じましたね。自分たちが10年後に成長していると思った企業にも関わらず、投資方針が右往左往してしまう、ESG投資の難しさを身を以て理解できたのが一つの成果でした。

代表不在、”世界観”で繋がる自律型コミュニティ

ー BRIDGEsは代表者や役職が不在とお聞きしました。メンバー皆さんが本業と両立してやられるのも大変かと思いますが、なぜ機能できているのでしょうか?

【岡井】目指してる世界観やゴールが一緒ということに尽きると思います。課題意識はみんな一緒だったので、自分たちも仕掛けようと思ったときに、イベントをやろう、レポートを出そうというアプローチができます。

勉強会は毎週金曜の朝8時からやっていました。それに加えて、イベント前の一ヶ月は、本当に深夜2時3時まで準備をしていて。それでも翌日は普通に仕事しないといけない(笑)。

みんなそこそこ忙しくて、自分もそうだからわかるんですよね。忙しい時は、誰かが気づいて進めてくれる。同じ想いを持っているので、何も決めないでも、各自が役割を設定して。多様なバックグラウンドを持った人が集まっていたのもポイントです。

金銭報酬が発生すると、誰かがずるいみたいな話は必ずあると思うんですが、今回は全くなく、同じゴールをシェアできていたというのが、すごく大事でした。

【濱本】ボールをキャッチできなくても、「私、取りましたよ」みたいな天使のような人がいっぱいいるわけですよ。不思議とカバーし合うような流れができて機能しているというのが、BRIDGEs事務局コミュニティの素晴らしい点です。

なぜイベント開催に行き着いたのか?イベントで成し遂げたかったこと

ー 先日行われた大規模なオンラインイベント「BRIDGEs 2021 - ESG&SDGs Meeting -」の目的や、着想に至るまでを教えてください。

【濱本】結成後に勉強会を50回くらい重ねて、「これだけやってきたのに何もアウトプットがないのは寂しいよね」と話している中で、2つのことを思案しました。1つ目が、アンケート調査した内容をホワイトペーパー化して世の中に発信できないか、ということ。もう一つは、ペーパーだけが出回ってもメッセージが伝わらないのではないか、メッセージを伝える手段としてイベントを実施するのはどうか、ということでした。

我々が勉強してきた課題感や想いをしっかりとぶつけたり、影響力のある方が登壇することで、大企業の考え方を一気に変化させるような機会が作れないか。そのような経緯でイベントの企画に至りました。

【澤口】初期ターゲットは、私達みたいな企業の若手・中堅。ESG&SDGsに取組みたいけど色々な壁や狭間を感じて困っている方々が、手を取り合えるきっかけになれたらと思っていました。

そういった方々がESG&SDGsの重要さを再確認して、仲間を見つけたり、何かやれそう、行動してみようというきっかけになるイベントにしたいという構想からスタートしました。

ー BRIDGEsの活動で大事にしているスタンスを教えていただけますか?

「相談相手や仲間がいて、同時多発的に新しいことを始められるコミュニティにしたい」と話すBRIDGEs鈴木氏

【鈴木】理想としているのは、同時多発的にプロジェクトが起こっていくこと。例えば、ここで出会った人たちが新しいことを始めるみたいなことが、連続的に起こっていくような仕組みになったらいいなと思うんですよね。

コミュニティに来たら相談相手や仲間がいて、1社でやろうとしていたことが複数の企業担当者が繋がってコラボレーションできる、そんなようなことができたらいいなと。

【濱本】カオスな状態の方が面白い取り組みはどんどん生まれます。「決まらないと動かない」組織にはなりたくないんです。

サステナブルは、「自然」にすごくヒントがあるんですよね。色々なものが混沌として存在しているからこそサステナブル。ずっと続いている。そういうもののコミュニティ版を作りたいなと思っています。

大企業を中心に1,000名超の参加者が集まった大規模ESG&SDGsイベント当日の様子、イベント後の反響は?第2回インタビューはこちらから。

【独占取材】小泉環境大臣も登壇!1,000名以上が参加したオンラインイベント「BRIDGEs 2021 - ESG&SDGs Meeting -」開催の裏側【第2回】

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